地政学とリアリズムの視点から日本の情報・戦略を考える|アメリカ通信

国際情勢の中で、日本のとるべき方向性を考えます。地政学、リアリズム、プロパカンダの観点から、日本の真の独立のためのヒントとなる情報を発信してゆきます。

日本の国益を考える
無料のメールマガジン

「大田モーゼ」は沖縄の民をどうする 文芸春秋「諸君」平成9年・1007年・6月号

つづきはこちら 論文一覧へもどる

声なき声を無視し「反基地」闘争を金のなる木にした大田県政は沖縄の「自立」を阻害する。

  沖縄の米軍用地の使用権原が5月14日に切れるため、駐留軍用地特別措置法の改正案が先日(4月18日)国会で成立しました。それに先立って田久保さんは、4月9日に開かれた衆院日米安保土地使用等特別委員会で参考人として意見を述べられましたが、そのときの発言に私はとても共感を覚えました。

  田久保 新進党推薦の参考人として出席しました。まず最初に発言したことは、今の混乱した事態を招いたのは、沖縄の少女暴行事件発生時(95年9月)の村山政権の初動の対応のまずさに責任があるということです。つまり、事件直後に上京してきた大田昌秀・沖縄県知事が日米地位協定の改定を口にした。それを河野洋平外務大臣(当時)が、日米地位協定は何ら支障なく運営されており、これを変えるつもりはないと発言し、沖縄は先走りしすぎていると指摘したのです。これは河野外相自身の判断で言えるわけがありませんから、事務当局の作成したメモを読み上げたわけでしょう。これで沖縄の人たちが怒った。

   ええ、宜野湾市で開かれた抗議集会には主催者発表で8万7000人、警察発表で5万8000人が参加しましたね。

  田久保 その数に驚いて、その後、本土政府は沖縄県側の主張をけじめなく、何でもズルズルときくようになってしまった。ただ、事情を比較的よく認識していた宝珠山防衛庁長官(当時)だけが、「今の沖縄に対して理性でものを言うべきで、あたかも基地がいくらでも返ってくるように感情で発言すべきでない」と語った。その際、うっかり「村山首相は頭が悪い」と口をすべらしたものだから、辞任においこまれてしまったけれど、彼の発言はまさに正論だった。

  僕が委員会で強調したのは、けじめが必要だということなんです。つまり、沖縄だって他の都道府県と同じ日本丸という船に乗っているんだと。その日本丸の命綱である日米安保条約、これを傷つけることはすべきではない。だからその枠内でできることは何でもやりますと言えば、一つのルールができたと思うんです。しかし、政府の原則なき対応によってその点がぼやけてしまった。

  二番目に取り上げたのが、日米安保条約を頭から否定する人たちの声を、あたかも沖縄県民の声であるかのように報道機関が伝えていること。とくに「琉球新報」「沖縄タイムス」の二大紙は一坪反戦地主の発言ばかり取り上げ、しかも二社の編集幹部に一坪反戦地主がいる。
  彼らの実態たるや恐るべきものだが、新聞はそれを報道しないばかりか、あたかも悪質な地主の機関紙のごとくなっている。そのため一坪反戦地主の実態がほとんど県民には理解されていなかったと意見を述べたんです。そのあたり地元の実状はどうなんですか。

骨抜きになった地元経済界

  彼らの実態は全く明らかにされていなかったし、しかも一坪反戦地主の中には過激派が多くいる。9年前でしたが、沖縄にいる自衛官の車が次々と焼かれたことがある。それについてひと言でも意見を言おうものなら本人や家族に危害が加えられないか、自分の車も焼かれないかと県民は恐怖感をもっていた。ですから、県民は義憤を感じていても何もものが言えなかった。たとえ投書しても新聞社は取り上げない。まさに異常な状況でした。

  田久保 私と同じ特別委員会に参考人として出席した地主会副会長の金城重正さんは、「沖縄の新聞には一坪反戦地主の声ばかりで、われわれの意見はまったく反映されていない」と実状を訴えましたが、一坪地主は3万数千人の地主のわずか一割弱の3千人です。所有する土地の面積比にいたってはたったの0.2パーセントにすぎない。そのうち1400人が本土に住み、沖縄とはなんの関係もない人たちです。1400人の中には、中核派、革マル派、戦旗派、第四インターなど過激派がズラッと並んでいる。かつて凶器準備集合罪、公務執行妨害、住居侵入罪などの刑に服した人々も少なくない。
  少女の不幸な事件を発端にして、沖縄の基地整理・縮小論、普天間飛行場の代替地問題、あるいは沖縄の振興をどうするのかといった大きな問題に広がってしまい、もう後戻りできなくなっている。こうしたアンコントローラブルな状態がこれからもどんどん続くと思います。

   私もそれは懸念しています。政府は去年8月から沖縄県庁と直接交渉を始めましたが、知事と総理、副知事と官房長官が同格と揶揄されるくらい沖縄がイニシアチブを握っています。これまでは革新県政に対して苦言を呈してきた沖縄財界までがこれを見て県とべったりになり、とうとう県政に意見を言える勢力がなくなってしまった。ですから皮肉なことに、国のやった政策がアンコントローラブルな状態をますます加速させることになってしまった。
  沖縄県の各市町村は本土の自治体と比べて行政面積が、基地面積を減じなくても全国最下位に近く狭小です。しかもそれぞれの役場の人口千人当たりの職員の数が全国類似市町村に比べて多い。さらに給与水準も高い。この職員が反基地運動ばっかりやっていたために、行政がかなり停滞してしまった。県民はこのままでは市町村の財政が破綻するとそろそろ気付き始めたので、組合も反省しつつあった。そこに国が基地懇談会等の答申を鵜呑みにして地方交付税交付金を増やしたものだから、組合の連中としてみればやれやれ、首が繋がったと安堵しているところなんです。

  田久保 沖縄に金をばらまけばいいというのがいまの本土政府のやり方でしょう。政府は普天間基地が全面返還されることを現地が容認してくれるからと、移転先が決まらないうちから88項目の振興策を打ち出した。どんどん金を放り込めば沖縄は満足するだろうという考えでしょうけど、これは際限なく続いて行く。沖縄の人たちの自主独立の気概を殺してしまい、地鶏の逞しさではなく、ひ弱なブロイラーを育ててしまう。長い目で見た場合、沖縄の人たちのためにはならないと思いますね。 目的を明確にして政府から補助金をもらうのではなく、基地の整理・縮小や普天間飛行場の移転受け入れ反対などでゴネさえすれば、打ち出の小槌よろしくつかみ金が出てくる仕組みが、天下に明らかになってしまったわけです。

   そうした資金の投下のされかたが、かえって県民の生産意欲を低下させる。ところが、中央から調査にくる方々は表面しか見ていませんから、「沖縄は基地のために閉塞状態に陥って、本土に比べて開発が遅れている」と単純に受け止めてしまう。とにかく根本から改めないと、沖縄問題はますます泥沼化するでしょうし、今後沖縄で米軍関連の事件、事故が発生した場合、また沖縄を出発点にして安全保障問題に刃が突きつけられることになると思います。

  田久保 大田知事は少なくとも選挙公約では、反安保、反基地を少しトーンダウンさせていた。だから私は本土との間で暗黙の了解があって、安保維持の県政をやるだろうと思っていた。ところが彼の言動は明らかに安保の枠組みからはみ出している。
  彼は沖縄には基地はいらない、国際都市構想を実現して、究極的には基地は沖縄から撤去するという考えです。しかし、この考えは、なぜ日米安保が必要なのか、その背景として日本をめぐる北東アジアの安全保障環境がどうなっているのかといった分析が全く欠落している。感じだけで北朝鮮や中国の脅威はないといっている。

   私は国際都市構想を実現するのであればなおのこと安全保障への配慮が必要になってくると思うんです。しかも大田知事は、日米安保には反対しないと言いながら、軍事同盟にはあくまでも反対だと言っています。軍事同盟の側面よりも政治、経済、文化の同盟関係が主眼だといいますが、知事は安保の本質を曲解していると思います。だから、訪米したり本土に行ったときには、自分は日米安保は反対じゃないんだと公言するわけです。けれども、知事の捉える日米安保と、日米両国が捉える日米安保とは本質的に違います。

  田久保 同盟というのはアライアンスで、これには共通の敵が存在するから、脅威を感ずる国同士が同盟を結ぶことを意味している。文化、経済であれば同盟とは言わない。その場合は、文化交流協定とか、経済交流協定を結べばいいだけの話です。だから大田知事はアライアンスの基本的な意味がわかっていないんじゃないですか。

   個人攻撃するわけではありませんが、知事のいろいろな言動を見てますと、まず歴史の分析が曖昧だし、ご本人のモラルにも問題がある。知事は米軍の費用でアメリカに留学し、しかも定年近くまで米軍がつくった琉球大学で教鞭を執っていた。知事の行動を見てみると、非常に親米、反日です。その親米ぶりを示すエピソードが一つある。沖縄に住む米軍の高官に知事が、「私は知事を退任したら、長男のいるハワイに行って永住します」と話したというんです。それを聞いた米軍の高官は「知事は沖縄のことを真剣に考えているのか」と唖然としたそうです。私はその米軍の高官から直接聞きました。

恣意的報道を続ける地元マスコミ

 田久保 大田知事の側近に北朝鮮のチュチェ思想の信奉者で北朝鮮に好意を持つ佐久川政一沖縄大学教授がいますが、彼は一坪反戦地主でもある。佐久川さんが反基地運動の思想的なリーダーになっていることについて地元の反応はどうなんですか。

   沖縄では反日反米、親中親北朝鮮的な機運が醸成されているので、同じ被抑圧民族としての北朝鮮、あるいは中国とその連帯ということに関して、県民に警戒感はあまりないと思います。根底には「抵抗史観」というチュチェ思想と沖縄を結びつける歴史認識をめぐる共通項がありますからね。「主体的な思想」はいいのではないかと肯定的に考える人が少なくないでしょう。だから、恐ろしいんですよ。このまま戦後恣意的に作られた沖縄近代史を放置していると、沖縄県民の意識はますます乖離していきますよ。

  田久保 佐久川さんが考えていることが一番よくわかるのは、「チュチェ思想」1996年3月号の記事です。同年2月18日に千葉県教育会館で行われたチュチェ思想と日朝友好に関する全国セミナーで佐久川さんは、「今セミナーはまた朝鮮を正しく理解し、朝鮮との友好、連帯を強めることを通して日米安保と在日米軍基地をなくし、日本を自主化していくことにも寄与するといえます。在日米軍をはじめ、アジア・太平洋地域に駐留している米軍の銃口は朝鮮に向けられています。朝鮮に矛先が向けられた日米安保体制の最前線に位置しているのが沖縄です」と発言しています。
  この人は明らかに日米同盟に反対して、沖縄の人民と北朝鮮人民が連帯して抵抗しなければいけないという発想です。これはさんのおっしゃるように北朝鮮人民の抵抗と沖縄人民の抵抗に相通ずるものがあるという根強い歴史観に裏打ちされています。

   チュチェ思想は、思想、経済、政治、軍事、四つの面での自主ということを言っている。これに対して沖縄では沖縄県のキーワードを「平和、共生、自立」と表現しています。

  田久保 「自立」とチュチェが非常に共通しているところがあるんですよね。

   共生も、最近そういう文言がになったんであって、それまで知事は「自主、自立、自力」と言ってました。共生というのは生物学用語でいま本土でもよく使われていますよね。うまく引用したんではないでしょうか。

  田久保 衆院の特別委員会でも指摘しましたが、私は沖縄が抱える大きな問題の一つにメディアのありかたがあると思います。とくに沖縄の二大紙「琉球新報」「沖縄タイムス」は、反基地、反米、反本土でむきだしの敵意をもっている。

   この二紙の県内の新聞販売シェアは97.9パーセントを占めてますから、県内世論の形成には重大な影響力をもっています。

  田久保 二つの新聞が同じ論調、同じ記事を掲載し、しかも一定のバイアスのかかった紙面をつくっているのか看過できません。たとえば、4月3日に特措法が閣議決定され、午前中に国会に提出された。その4月3日付夕刊の「沖縄タイムス」「琉球新報」の社会面を見ますと、沖縄県民の反響は、ほとんど一坪反戦地主の声で埋め尽くされている。新聞の報道を見る限り、これが沖縄県民の声だとわれわれは解釈してしまう。本来は金城重正さんたちの意見を90パーセント、せめて半分は載せるべきなんです。そうした意見を載せないというのは、恣意的に紙面づくりをしているとしか考えられない。前々から異常だと思っていましたけど、これほどまでとは想像していませんでした。

   一県の中で異なった考えの新聞が拮抗すれば、発展はありますが、沖縄の場合は似たような新聞社が二社あって、それがシェアを独占しているからおかしくなっている。地元の新聞を購読すると、頼まなくてもスポーツ新聞がサービスで入ってくるし、1月3日など勝手に両紙とも休刊していたんですよ。それでも経営が成り立つシステムがまずおかしいですよ。復帰に伴う特別措置として本土との格差から沖縄の企業を守るため、法人税の軽減措置などの沖縄特別措置法が制定された。当時時限立法だったのが、地元の要請で5回も延長されているものだから、そういった経営でも成り立っている。
  私は毎日、本土紙と比較しながら読んでいますが、地元紙は社説をはじめ国際問題、歴史問題、すべてレベルが低い。これでは沖縄県民は国際性を身につけられないし、本土の人たちとの思考的格差は広がる一方だと思います。だから、早くリアルタイムで読めるしっかりした本土紙を沖縄で発行してほしいと思いますね。

  問題多い「一国二制度」

 田久保 いまは企業はもちろんのこといろいろな分野で競争原理が導入されているのにも拘わらず、言論に競争原理が働かないなんて信じられない話です。いろんな言論の多様性があって、その中から比較的健全な報道機関や言論が発達していくと思いますが、沖縄にはこの競争原理が働いていない。

   本来、これを批判するのは本土の新聞の役割のはずだと思いますが、構造的に本土の新聞は、この地元二紙にお世話になっていますね。

  田久保 ええ、私がいた69から70年ごろには二紙の編集局のフロアーに衝立で仕切って二つか三つぐらい机を持ち込み、電話を置かせてもらっていた。「琉球新報」だと産経、毎日、読売、日経、「沖縄タイムス」には共同、朝日が入っていた。
  地元紙の編集局がフロアーの真ん中にあって、何かニュースが発生すればすぐわかる。本土紙は地元紙の動きを見て記事を書ける仕組みになっていた。で、たとえば本社のデスクから、「おい、嘉手納の暴動の写真一枚撮れ」と指示がきても、カメラマンがそんなにいるわけじゃないから撮れるはずがないんです。そうすると新報かタイムスの写真部に飛んでいって、「本社が言ってきてるからあの写真一枚融通してよ」となる。だから協力してくれる新聞を批判できるわけがない。本土紙の記者はこんな変な新聞はないと内心思っていても、毎晩地元紙の連中と仲良く一緒に酒を飲んでいた。ほとんどのメディアが二紙にご厄介になっているという弱みがあった。
  いまは事情は変わったかもしれないが、両紙のビルに支局があるのは事実だ。今回の事件で本土各紙も激しい競争になっているから、独自の取材体制を敷いているようだが、基本的には協力関係が成立しているのではないか。

   ひどいのは県民の総意という大義名分のもとに地元紙が世論をつくりあげてしまうケースです。たとえば、特措法改正について「琉球新報」「沖縄タイムス」の二紙は県民アンケート調査を行っている。その結果、沖縄県民の61パーセントは反対という数字がでています。ところが、実際に世論調査とした人に聞くと、質問した際に特措法の内容自体を知らない県民が非常に多かったというんです。だから、調査如何によっては、回答はいくらでもつくれるということでした。
  それと、沖縄県の市町村会は特措法改正に反対の決議をしましたが、それをリードするのにマスコミが大きな役割をはたした。たとえば地方自治体の首長が取材で特措法改正に賛成の意志表示をすると、「○○村長は特措法改正に賛成」などと紙面に載せられてしまう。すると労組や革新団体がウワーッとその首長に抗議に行くわけです。だから正論を言いたい首長でもめんどくさくなって、「まあ大筋では反対ですな」と曖昧な答えをするものだから、反対と解釈されてしまう。それが、県民の総意は反対だというように作られていくんです。

  田久保 沖縄は革新が言論を支配する一種の大政翼賛会になっている。それがずーっと続いてきた。地元財界は対抗策として、もう一つ別の新聞をつくらなくてはならないと模索しながら、決めてがないまま現在に至っている。
  それと地元紙の紙面からは国際的な感覚はほとんど読みとれないですね。僕は記者時代、那覇、東京、ワシントンで暮らしましたが、ワシントンから見ると日本の全国紙は非常に視野が狭い。やはり島国の新聞だなと思う。ところが東京で「琉球新報」や「沖縄タイムス」を読むと、全国紙をさらに極度に狭くした感じを受ける。このため国際性がなく、安全保障など眼中にない内容になって、自分の目の前にある基地を撤去するかどうかという近視眼的なものの見方になっている。
  基地撤去だけが目的で、その結果なにが起こるかを考えない。沖縄から海兵隊が全部いなくなった場合に、沖縄県という島の防衛をどうするのかということは論じない。安保なんか自分たちの知ったことではないということになる。湾岸戦争の時に日本が一国平和主義と非難されたけれど、いまの沖縄は一県平和主義ではないかと思いますね。

   そういう点ではいま沖縄県が自己矛盾を露呈しているのが、一国二制度の特別立法を実施してくれと政府に要望していることです。ところが、国が機関委任事務を見直す米軍基地使用に関する特別立法は、沖縄差別だから反対だと騒いでいるわけですね。経済的な特別立法はやってくれ。しかし、基地使用に関する特別立法は琉球差別だと言うわけですから。

  田久保 この一国二制度には国内ばかりでなく国際的にもいろいろな問題があります。琉球は中華民国の一部であるというのが中国、あるいは台湾国民党の基本政策ですから、彼らが何を考えているのかもしっかり頭に入れておかないといけない。私が信頼すべき筋から聞いた話では、いま中国と台湾の間で沖縄をめぐって非常に険しい関係が続いています。
  台湾の李登輝総統が、沖縄からの代表団に対して沖縄と台湾との間でのノービザ制度を実現すべきだと発言し、本土政府の一部でも同じことを考えている向きもあるようです。そうなると李登輝総統は台湾から沖縄に非常に入りやすくなる。そのことに北京政府は非常に神経をとがらせているんです。だから中国は、そういう形で李登輝総統の訪日に道を開く「大田知事憎し」という気持ちでしょう。先閣諸島に中国の艦艇が出動するという物騒な状況のなかで李登輝総統が日本に入国すれば、中国は武力で阻止するかもしれないと私は危惧しています。だから安易に、一国二制度を実現しては、などと考えていると国際紛争に巻き込まれる事態になりかねない。

   これは報道されていませんが、3月に自衛隊パイロットの友人は待機態勢についたんです。それは尖閣の近海に中国の船舶がかなり接近して行動しているため、海上自衛隊の対潜哨戒機部隊が警戒態勢に入ったということです。ですから政府は沖縄の政策を誤ると、たいへんな不安定要因を作っていまいますね。台湾、中国との紛争にも拡大していくでしょう。だから、沖縄に対して金をばらまくような政策や、甘やかすような優遇措置はとらないほうがいいと思います。

懸念される過激派反戦地主の動向

 田久保 69年11月に佐藤・ニクソンの沖縄返還を含む日米共同声明が発表されましたが、その前に沖縄の独立論が浮上しました。その独立論を唱えているグループの一部の人たちが頻繁に台湾と沖縄を行き来していた。そして共同声明の直前に蒋介石の名前で沖縄の政財官界の有力者に、いまこそ独立の機至れりという文書が発送された事実がある。ですから、琉球独立というのは極めてデリケートな事柄で、非常に大きな問題をはらんでいるんです。

   私はこの特措法の改正が成立したことで、第三勢力の作戦は大幅に変更せざるを得なくなってきていると思います。トラブルが起きても、せいぜい彼らが持っている迫撃弾をどこかに落とすぐらいではないかと思います。あるいはボヤ騒ぎが起こるかもしれませんが、それぐらいで終わるんじゃないかと思います。というのは、あまりに過激にやると、県民が離反していきますからね。たぶん大田知事や沖縄県庁も、今後は彼らの活動の仕方によっては距離を置かざるをえなくなる。だから、そんな極端に過激な行動には出ないと思います。たとえば米軍基地のフェンスを突き破って滑走路に寝転がるとかはやれないと思いますね。
  決定的なことは、もともと犬猿の仲ですが中核派と革マル派が対立していることです。土地収用委員会が開かれると、入り口で中核派と革マル派が睨み合う、一触即発の状態なんです。中核派に聞くと、革マル派を目の仇にしている。だから総攻撃はできないと思います。

  田久保 でも油断はできないですよ。「前進」「解放」双方の機関紙を読んで見ますと、いま彼らはいろいろなところで挫折感を感じている。ですから新左翼は、これが唯一のチャンス到来と見ているところがある。おそらく沖縄県警も全力をあげて不祥事態が起きないように努めるでしょうが、一坪反戦地主の中の過激な連中が五・一四、あるいは五・一五以降にどう行動するかですね。
  革マル派は3月15日付の「解放」でこう言っています。「一坪反戦地主をはじめとする沖縄労働者、人民、在『本土』沖縄出身労働者、人民と連帯し、公開審理を粉砕し、米軍用地特措法改悪を阻止して、軍用地強制使用を粉砕しよう」。特措法はすでに国会を通っていますが、これは暴力行使を宣言していると読めます。この連中は沖縄にいつまで入っているようですけれども、5月14日が近づくにつれて続々と入っていく。去年は楚辺通信所に知花さん一人だけが入りましたが、この連中が何十人、あるいは何百人、理論的には一坪反戦地主の三千人が入るということも考えられます。
  過激派が百人単位で入ったとしたら、軍事基地の性格から米軍は攻撃し、最悪の場合は断固撃ち殺す場合もある。こういうことになると、日米安保条約は一挙にアウトということになってしまいます。特に二期目にはいったクリントン政権は内向きの姿勢に転じますから、沖縄で極左の侵入事件がおこったのを機会に、米軍を引き揚げろと議会、あるいはアメリカ世論が騒ぎ出せば、一斉撤去という事態も考えられないわけではないと思います。
  現に、フィリピンでは政府が基地を存続する協定を結んだのに議会がこれを否決したため、アメリカはスービック基地から米軍を一気に引き揚げてしまった。ですから、この5月というのは非常に重要な時期で、反戦地主の中の過激派のプロ集団がどういう行動に出るか見守る必要があると思います。

追いつめられた大田知事

  昨年の11月に那覇で福建サミットがありました。これは福建省のいろいろな関係者を呼んで、福建省と沖縄の親交を深める目的で開催されました。そのときに吉元政矩・副知事が面白いことを言っているんですよ。それを紹介しますと、「平成7年9月に代理署名を沖縄県知事が拒否したのは、その月に起きた少女暴行事件が主因ではなかった。その年2月に出されたナイ・レポートのアジアの米軍兵力10万人体制に対する抵抗であった」と明言しているんです。これは恐ろしい話だと思います。1億2千万余りの国民の安全保障を沖縄県庁がそういった手段で左右していいんでしょうか。私はこれを聞いたとき特措法改正どころの話ではなく、まずこういった話を国民に広く知ってもらう必要があると思いました。機関委任事務自体をもう少し見直すべきじゃないですか。

  田久保 今度の沖縄問題を大田知事対首相官邸の戦いで見ると、沖縄が得たものというのはお金の問題でしょう。ところが、去年の代理署名の拒否で、最高裁の判決が出た。これは大田知事に対してみれば挫折感がある。それから今度の特措法では、絶対反対と言ったのが通ってしまった。二度目の挫折です。彼がいまどういう心理状況にあるかといえば、アメリカに飛んで同情を買う以外にない。これまでゆとりがあるときは「安保は何も廃棄するわけじゃない」と言っていた。ところが追いつめられて、一部反戦地主と同じ立場に身を置くことも考えられている。
  彼はアメリカに行って、概ね冷たいあしらいを受けた。そうすると動きがとれなくなってくる。一方、新左翼とは厳然と一線を引かないと自分の政治生命は危なくなるというジレンマにだんだん陥っていく。最終のところは任期半ばに辞任するという事態になることもありえないことではない。

   最悪の場合は沖縄県が統御不可能な状態が起きる可能性があります。というのは、知事が仮にやけくそになって辞表を出した場合に、国は誰と交渉すればいいのかということになりますからね。

  田久保 知事が途中で辞めた場合は、知事選挙をやるんでしょう。その場合、革新が有利になりますか。

   いまのような体制だったら断然革新が有利です。「基地撤去」という膨大な金は落ちるし、総理とも直接対談できる。しかも革新勢力は沖縄の現実を無視して、夢物語をいくらでもできる。「沖縄が世界の核となる」とか「平和の発信地になる」と平気で言いますからね。地元紙はもちろん革新勢力の一翼だから、戦いにならないですよ。
  しかもいま沖縄の保守は骨抜きになっている。沖縄の財界は、総理が県知事を直接交渉したものだから、みんな県知事寄りになってしまったわけです。だから対抗する側に力のある者がいない。今後も沖縄は革新天国が続きますよ。

  田久保 ここで大田知事が憤死すると、彼は本土に抵抗した英雄、殉教者ということになるのかな。

   これは沖縄の県民性かもしれませんが、一部の県民の深層心理には、知事が総理と直接対談し、総理と意見を言い合ったというのはたいしたもんだという気持ちがあります。だからいびつな心理をいうか、東京に一矢を報いたいという気持ちを抱いている。
  特措法の改正でもそうでしたが、それは沖縄の政治カードを失うから反対だという人もいたんです。私は議院内閣制度のもとで沖縄から国会議員を8名も送りだしているのだから、国会でフェアに沖縄問題を討議すればいいと思うのですが、残念ながら沖縄出身の代議士は戦前から党利党略に走って団結力がないために、沖縄振興という面でスマートに国を動かせないんです。
  国会でフェアに討論するだけの理論づけができない。だから手っ取り早く基地問題を人質に総理と直接交渉でやろうといういびつな行動になる。私は現在の沖縄の政治思潮をこのように分析しています。

  田久保 だけど、沖縄にも金城さんのような人が中央から出てきてきちっと意見をぶつ。それから「琉球新報」の座談会で、社民党の上原康助さんが特措法改正に態度保留で、反対とは言わなかった。勇気があると思う。彼は国会議員としての立場と、沖縄のことを考える沖縄選出の代議士、この矛盾をずっーっと感じて悩んでいるんじゃないかと思うんです。彼のように先を見る能力のある政治家というのは、次の時代は俺がという自負を持っているという印象を受けました。

   そういった面では本土のメディアの役割が一番重要だと思いますね。本土のメディアが沖縄をよく分析し、沖縄の正論を吐く人たちの意見を吸い上げていけば、たいへんな援護射撃になると思います。

  田久保 いま産経新聞と読売新聞の社説が非常にフェアな主張をしています。

   あとは全国ネットのテレビあたりが沖縄の真剣な声を取り上げてくれれば、相当な効果があると思いますよ。

  田久保 テレビはむしろ一坪反戦地主の意向を汲むようなコメントが多すぎます。

   そこのところを変えることができたら、かなりよくなると思います。最後に、戦前、沖縄民俗学の祖といわれた伊波普猷は沖縄人の最大の欠点として「恩を忘れ易い」と県民の事大主義的な点を痛烈に批判している。沖縄は本土ばかりか米軍からも相当な援助を貰ったんです。反権力的な言動ばかりしないでたまには感謝するとか、「恩返ししたい」とかもう少し素直な気持ちをもってもいいと思います。

ページTOPへ

つづきはこちら 論文一覧へもどる