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基地の急激な縮小に反対「産経新聞」オピニオンプラザ わたしの正論 (1996・平成8年2月6日朝刊)

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入選1位 恵 隆之介 (めぐみ・りゅうのすけ)
昭和29年2月、沖縄市生まれ、42歳。防衛大学校卒。海上自衛隊を経て現在、琉球銀行調査役。著書に「天皇の艦長―漢那憲和の生涯」。初めての応募。那覇市在住。

基地の急激な縮小に反対 基地なき後の経済展望なし

私は沖縄に生きる者として勇気をもって沖縄問題の真相を述べたい。

  現在、沖縄県内は基地縮小慎重論さえ公言できないほど異常な状況にある。県内マスコミの記者室にはラジカルな現状に反論する声も多数よせられているようであるが、そのような投書はことごとく県内紙に掲載されない。さらに、あたかも基地撤去は県民総意であるかのような文言がマスコミから連日、県内外に流布されている。 

  私はまず経済的観点から、在沖米軍基地の急激な縮小、撤去には反対である。

  当初、県は沖縄で起きた米兵による少女暴行事件を糾弾すべく、十月、県民総決起大会を開催した。このときは基地縮小というスローガンをもって超党派で多数の県民を集めた。ところが十二月になると、二十年後の二〇一五年までに基地全面撤去をめざすと内容を変更したのである。そこには基地なき後の経済展望などなったく立てられていない。

  沖縄県の財政は、自主財源二三%、残りはすべて国庫補助である。また県の主要都市である那覇市、沖縄市の経常収支比率は九〇%を超えた。これらが企業であれば破産寸前でる。

  ところが県内人口は着実に増え続け、平成七年度現在百二十七万三千五百八人となり、過去5年間で四.一%の増加率を記録している(全国平均増加率一.六%)。さらに県内失業率は全国平均の約二倍、七.一%に達し、産業構造も三次産業に偏重している。

百二十七万の人口養えない

  戦前、沖縄の産業構造は砂糖きびを主体とする農業が主体とする農業が中心で、耕地が少ないことから若者は本土への出稼ぎか、海外移民へ出ていかざるをえなかった。したがって戦前、沖縄の人口はピークで五十九万七千九百二人(昭和十二年)であり、人口増加率も五年平均〇.五%であった。

  終戦直後から五十年間に人口が二倍になったゆえんは、米軍統治時代にガリオア援助やエロア援助といった当時豊かだった米国の援助があったからであり、日本復帰後は強くなった円による莫大な国庫補助の帰結である。

  ところで復帰のさい、県は自立経済をめざして本土大手の製造業を誘致すべく努力したが、沖縄の労働運動が政治色を帯びている観点から本土企業は一社も進出しなかった。

  結局、沖縄は基地経済と国庫補助に依存しなければ、現在百二十七万余の人口は養えないのである。政府は全国平均地価が下落するなかで、平成八年度の軍用地借料を前年比五%アップの総額七百五億円を呈示している。また、基地の所在する市町村へは基地交付金、同調整交付金、基地周辺対策費等の名目で資金が投下され、地公体歳入の平均二〇%を占めている。

  県民の一部はこれらを不労所得と自嘲し、県民の勤労意欲を阻喪させると批判する者もいる。が、内外経済環境が厳しいおり、県の主張する基地全面撤去は約七千五百人の基地従業員、約二万八千人の軍用地主(2千八百人余は反対地主)、そして基地関連業者らに不安を募らせているばかりか、沖縄経済全体に混乱をきたすおそれがある。

  ではなぜ、沖縄県はかくも強固に一部反基地勢力と雷同してイデオロギー的観点から基地撤去を主張できるのであろうか。 それは他の県が行っている国庫補助獲得等の県本来の執行業務を沖縄開発庁が代行していることに起因する。

極東の平和のために不可欠

  沖縄県が真に自立するに足る思考力を持つためには、この沖縄開発庁を縮小、廃止すべきであると考える。そして沖縄に投下する国庫補助も今後は人材育成などのソフト面に重きを移すべきである。

  また県内では、本土新聞は割高であるため地元二紙を県民は購読しているが、偏向報道が少なくない。常々、彼らは米軍の功罪の罪の方だけを報道しているが、米軍は沖縄の復興のためによくやってくれと思う。とくに、現代沖縄の中核として働く約一千百余人の五十から六十代は、かつて米軍の大学に学んだ経験をもつ。知事もその一人なのである。

  次に、日米安保について言及したい。わが国を取り巻く情勢は依然、予断を許さない。中国の核開発を含む軍備拡張、中台関係の悪化、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)問題ありで、次なる国際紛争の火種はこの極東にあるものと思われる。ここにおいて在日米軍の兵力は、抑止力として極東の平和のために必要不可欠である。基地徹去運動の主張の根底には、無防備中立主義がみられる。が、彼らの意識のなかに南沙諸島問題などの国際情勢や、国際法上の中立国義務規定に関する知識などがまったくみられない。

  一九九六年は中台間の緊張も増すおそれがある。沖縄の基地機能の維持は、日米関係のみならず、これらアジア諸国の安全保証にも大きく寄与するものである。

  政府は沖縄問題について小手先だけの対応をとるのではなく、もっと沖縄問題の真相を分析し、強力に対応してほしいものである。

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